人間の行動・振る舞いの方程式 (状況に向かう姿勢)+(状況把握)+(行動・選択)「この方程式を覚えておきましょう」
パート1臨床倫理の基礎

意思決定プロセス

従来の考え方

医療現場における意思決定プロセスの中心は、治療方針の選択です。これについて日本では現在、
インフォームド・コンセント 説明と同意 という捉え方が流布しています(図 1)。

(図1)

この捉え方によれば、意思決定のプロセスの骨子は、

(a)医療者(主として医師)は、患者に現状と治療の可能性について説明をする

(b)患者はそれを理解した上で、医師が薦める治療方針に対して同意する、あるいは複数の選択肢の中から希望するものを選ぶ(治療を拒否するというのも選択肢の一つ)

という二段階からなっています。「インフォームド・コンセント」はこの説明を受けた上での同意のことですが、それは対象となっている治療を患者本人(の身体)に対して行うことについて、患者が医療者に許諾を与えることだと理解されています。

インフォームド・コンセント説明と同意 というプロセスが現場の医療者の頭に刷りこまれてしまっているために、例えば、患者側が、医師が勧める治療を嫌だと言ったりすると、すぐ「ではもう一度説明しましょう」というように話が進む傾向がでてきています。また、この説明内容は医学的情報が中心で、どういう治療をするかは医学的情報だけで決まるかのようなイメージをもたらしています。しかし、患者・家族が医療者が最適と思う選択をしないのは、説明の理解が不十分であるからだとは限りません。また、患者・家族は医学的情報だけでなく、自分の人生の事情や計画をも考えあわせて、どうしたいかを考えているのです。《説明と同意》というプロセス把握では、そういったことへの配慮が行き届かないのです。
説明を理解する〜


追加メモ

1) 説明-同意モデルの理解については、日本医師会生命倫理懇談会『説明と同意についての報告』1990年に基づいています。

2) 英語の informed consent は本来、上に示したプロセスの(b)の部分(患者が行う同意)のみを指す語ですが、 インフォームド・コンセント説明と同意 という理解に伴って、医師が患者に対して行う説明をもインフォームド・コンセント と呼ぶようになってしまいました。 上図に示す医師と患者の関係は、医師には専門的知識に基づき、治療を実行する立場であるので、裁量権がある一方、患者にとっては自分の生命・身体をどうするかという問題なので、自分のことは自分で決めるという自己決定権があるため、両者の権限の関係を明確にして、衝突しないようにするという考え方も背景にあります。

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