高齢者ケアと人工栄養を考える_第4刷
3/82

 高齢になるにしたがって、脳卒中や認知症や加齢によって、食べたり飲んだりすることが難しくなってくることがあります。食事をとるということは、若くて元気な人はもちろん、多くの人にとって、ごく自然で楽しいことですが、病気や加齢によって、嚥下(えんげ)機能が障害されたり低下したりすると、経口摂取ができなくなったり、経口摂取を続けると誤嚥(ごえん)してしまい、窒息や肺炎を起こし、生命に危険が及んだりすることもあります。食べることに関する問題は、高齢者ケアにおける大きな問題なのです。 この数十年の医療技術の進展によって、人工的に水分と栄養を補給する方法がいくつも開発されましたので、現代では、口から食べることや飲むことができなくなったという理由だけで死亡するということはなくなりました。一方、老衰や病気の終末期で、すでに消化や代謝の機能も大きく減退し、身体が水分や栄養をうけつけない状態になっても、人工的に水分と栄養が補給され、最期への過程にある高齢者に、かえって苦痛を与える結果になっていることも少なくありません。医療技術による益と害が同居しているといえます。 人工的な水分と栄養を補給する方法が複数あるなか、大切なことは、お一人おひとりにとって、人工的な補給をしないことも含め最適な方法を選ぶことです。 この冊子は、どのような選択に至るか、その意思決定のプロセスを、ご本人とご家族が、医療者の助言も得ながら、一歩一歩たどることを応援できたら、という思いで作られています。各選択肢の特徴に関する説明を読みつつ、自分たちの場合について考えながら書き込んでいくノートの形式になっています。 この意思決定プロセスノートの使用によって、ご本人にとって最善で、ご家族も納得できる意思決定に至るお手伝いができれば幸いです。2013年  著者はじめに本書は、日本老年医学会「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン ─人工的水分・栄養補給の導入を中心として」に準拠しています。

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る