高齢者ケアと人工栄養を考える_第4刷
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 経口摂取が可能なところまで食事介助し、それが不可能となったあとは、人工的な栄養と水分の補給を行わず、基本的な看護ケアを行いながら看取ります。適切な口腔ケアを行って、口腔内を清潔に保つことが大切です。唇が乾いてひび割れないように、適宜、湿らせましょう。小さな氷のかけらを含んでもらうのもよいでしょう。氷に味をつけるのもよいでしょう。 人工的な栄養と水分の補給を行わないというと、本人を「餓死させることになる」と不安に思うかもしれませんが、その心配はありません。これは自然の経過に沿うことであり、本人ができるだけ苦痛の少ない最期を過ごすためには、人工的な水分と栄養の補給は不要な場合が多いのです。 水分と栄養はどのような状態になっても必要最低限のものであろうと思いがちです。しかし、この直感は、本人が終末期にある場合は、事実に反するのです。生理学的にいうと、人工的な水分と栄養を投与しないほうが本人にとって苦痛がないのです。脳内モルヒネと呼ばれるβエンドルフィンの分泌やケトン体の増加が鎮静効果をもたらします。一方、余分な栄養や水分は身体的な苦痛の原因となり、死への過程を苦痛のあるものとし、さらにその過程を引き延ばすこともあります。ですから、終末期に余分な水分や栄養を投与しないことは、緩和ケアなのです。 「自然にゆだねる」かどうかは、慎重な検討が必要です。一見、非常に衰弱しているように見えても、終末期ではなく、一時的に摂食困難となっているだけで、今後、適切な治療とケアによって、回復やQOLの改善が期待できる状態かもしれません。そうであれば、人工的な水分と栄養の補給は必要ですので、見極めが肝心です。担当医師とよく相談してください。19

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