高齢者ケアと人工栄養を考える_第4刷
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人工的水分・栄養補給は行わない(=自然にゆだねる) 以上で説明したいずれの方法でも、人工的に水分・栄養補給を行わないという選択肢も場合によってはあるでしょう。「自然にゆだねる」と言われるやり方です。 以前は、医学が未発達であったため、一時的にであれ、口から食べられなくなると、人は生命の危機に直面したのでした。傷が癒え、あるいは嚥下機能が回復して口から再び飲食できるようになるまで耐えて、体力がもてば、生き延びられたでしょう。その間、飢え、渇きに耐えたのでした。現在でもこのようなやり方はできないわけではないでしょうが、快復の望みがある場合や、水分・栄養補給さえできれば、まだしばらくはよい生が可能である場合には、適切でないと考えられています。 「自然にゆだねる」方法が選択肢になる可能性がある場合は、次の通りです。❶経口摂取ができなくなっている期間がごくわずかで、その間、水分・栄養補給をしなくても、生命を維持できると見込まれる場合。(医療側は決して、人工的に水分・栄養補給をしないことを薦めないでしょうが、本人の意思が固い場合、尊重する場合があるでしょう)❷老衰や疾患の末期で全身状態が悪化していて、医学的にもはや快復の可能性がなく、水分・栄養を補給しても、身体がそれを有効に使えるような(新陳代謝できる)状態ではないため、生命維持に役立たず、本人の苦痛を増すだけの場合。(医療側は、この場合は、人工的な補給をしないことを薦めるのが適切です)❸水分・栄養補給をすれば、生命維持ができる(延命効果がある)が、延びたいのちが、本人にとって本当に益となるかどうか疑わしいため(ないし、ただ苦しい/意味のない日々となるだけなので)、本人の人生観・価値観に基づくなら、これをしないという選択もあり得る(これがグレイゾーンで一番難しい。現状では、本人・家族がしっかりした理由を挙げて、これを希望する場合に、医療側はそれを受け容れるという対応が適切でしょう)。 高齢者が経口摂取できなくなったのに、人工的な水分・栄養補給をしないということが検討されるのは、以上のうち❷か❸のケースでしょう。以下では、❷に該当する場合の進行について説明しておきます。318

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