医療への市民参加――ホスピス・緩和ケアに関する市民団体の地域間比較から
東北大学大学院文学研究科
田代志門

「チーム医療」や「インフォームド・コンセント」といった概念に象徴されるように、こんにち、わが国の医療のあり方は大きな変化を迎えている。従来念頭におかれていたような、医師が一方的に決定を下すパターナリスティックなモデルは批判を集め、それに代わってコメディカルとの協議や、患者や家族の同意に基づいたより民主的なモデルへの転換が支持を集めつつある。こうした文脈において、今後間接的・直接的なかたちでの「医療への市民参加」という課題は大きな意味を持ってくることが予想される。

とはいえ、「医療への市民参加」といってもその間口は広い。むろん、臨床の場面においては、個々の患者が医療上の意思決定に参加することが実質的な「参加」となろうが、むしろここでは、そうした個々の決定を支える土台となるような、地域社会(ないしは全体社会)のレベルで活動している各種の市民団体(NPO、ボランティア団体、セルフヘルプグループ等)に注目したい。例えば、病院ボランティア等の活動を通じて、病院と地域社会をネットワーキングする試みや、各地域の「生と死を考える会」のように医療に関わる勉強会やセルフヘルプ的な展開を見せている市民団体がそれにあたる。

そのなかでも本研究は特に医療の中でももっとも活発にこうした運動や活動が進展している「ホスピス・緩和ケア」の分野に関わる諸団体をとりあげ、それらが地域の中で具体的にどのような支援を行い、どのような課題を抱えているのかを主にインタビュー調査と参与観察を中心とした社会学的なフィールドワークによって明らかにしたいと考えている。なお、当日は報告者が2003年の春に中国地方で行った予備調査のデータから見えてくる市民活動の現状と問題を試論的に報告する予定である。

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