終末期医療の現場で遭遇する倫理的問題
―患者・家族間の意思の不一致に関連して―
大橋達子(看護係長)富山赤十字病院 8階西病棟

はじめに
私達が勤務する一般病棟では、急性期から終末期までさまざまな病期の患者が入院治療を受けている。中でも、医療スタッフがゆっくりと時間をかけて関わるケアを求められる終末期においては、チーム編成を分けてケアの充実を図るように努めている。今回、病名告知の関して患者・家族間の意思の不一致を経験し、中でも倫理的問題として遭遇したケースから、臨床現場での問題点について発表する。

事例紹介
患者プロフィール:60代、女性、家族は夫、介護を要する姑、息子2人。他に近くに住む息子夫婦。キーパーソンは夫。

病状の概要:
#診断名 膵臓癌、転移性肝腫瘍
腹痛にて入院、精査の結果、手術不可能な膵臓癌末期と診断された。患者本人は、入院時の病状説明に関するアンケートには、癌告知を希望すると回答していた。本人への病状説明に先立って、家族ヘ病状説明を行ない、本人ヘの説明と治療の選択について相談した結果、家族は病名告知を希望せず、患者へは「膵臓の炎症を取る治療」として化学療法を開始した。また、疼痛に対しては、MSコンチン処方され、化学療法4クール終了し1ヶ月半後、退院となる。家族へは、化学療法の効果は見られず余命数ヶ月と説明された。退院時、夫は、自分の口から癌であることを話すつもりであると話していた。
外来にて化学療法を継続していたが、2週間後、イレウスとなり、再入院。(在宅中、夫は、病名に付いて話すことが出来なかった。)入院後も改善しない病状に、患者は主治医への不信感を訴えるに至った。再度、家族と医師を含めたカンファレンスにより本人への正確な病状説明と今後の治療計画への参加を検討した。その後、病状の悪化により、病状説明の機会なく、数週間後死亡退院した。

このケースにおいて、

の2点が問題点として提起され、結果として、病状説明の機会を逸したことにより、患者の予後の生活に対する希望がかなえられなかった。また、告知の可否の決定権が主治医一人に委ねられているため、チームアプローチが実現しなかった点などが反省としてあげられる。

おわりに
一般的に、自身に告知を希望するかと聞いた場合、90%近い人は、希望するとされる。当病棟におけるアンケートの結果からも同様の結果が得られている。しかし、家族への告知を尋ねた場合30数%の人は告知を希望しないとされる。(読売新聞調査より)。入院の短期化に伴い、細やかな介入を必要とされる終末期ケアにおいても、患者や特に家族との関係構築や信頼を得るには時間を要し、時期を逸してしまうケースもある。健康な時から、家族間で自身や家族の希望や信念、時には死生観が語り合えるような環境作りも求められていると思う。

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