〈在宅における医療行為〉をめぐる対話の試み
中岡成文・堀江剛

医療の質を向上させるために、単に医療従事者だけではなく利用者や行政も含 めてコミュニケートしていける場や方法はないのだろうか。昨年、私たち大阪大 学臨床哲学研究室では「在宅における医療行為」をテーマにして、医師・看護 師・ホームヘルパー・患者・家族などを対象にしたアンケート調査および「対 話」を行った。それはまだ実験段階ではあるが、特定の医療問題について異なる 利害や立場の関係者たちが対話する、一定の方法に基づいて試行された(私たち はこれを「対話コンポーネンツ」(=対話の組み合わせ、略称「対話コンポ」) と名づけている)。

発表では、「在宅における医療行為」というテーマのもとで対話コンポの参加 者がどのような困難を感じ、またどのような成果を得たかなどについて報告す る。同時に、研究集会《医療の質の向上を目指して》に集まって下さったみなさん から意見・批判をいただき、対話コンポという方法の改善や改良の糧としたいと 考えている。対話コンポの簡単な手順と実施の経過は以下の通り。

対話コンポは基本的に四つの対話フォーム(第0~3コンポ)から成る。各コン ポは、異なる利害・関心の人々が一つのテーマについて十分に話し合えるように するために、それぞれ異なる機能をもたせている。

テーマの検討・選択(5-7月):対話コンポを実施するにあたって、スタッフ 間で何をテーマにするかを検討。医療・看護・福祉の分野にかかわる諸問題をで きる限り枚挙し、その中から対話コンポのテーマとしてふさわしいものを選択す る作業を行う。テーマ選択の基準として、医療・福祉関係者の間だけでなく、同 時に一般市民にも関心が寄せられるような社会的な広がりを持った問題に焦点を 合わせるようにした。最終的に、現在(ヘルパーのALS患者の吸引等で)問題に なっており具体的に話しやすいという理由から「在宅における医療行為」が選ば れた。

アンケートの実施・分析(8-9月):テーマの下に、関西圏の関係団体(病 院・訪問看護ステーション・ホームヘルパー派遣機関・保健所・患者家族の会な ど)約50団体(×10枚=500)に向けてアンケートを送付。回収54(看護師26、医 師11、家族7、ヘルパー6、理学療法士4、患者3、介護福祉士2、保健師1)。質問 内容は、在宅でどのような医療行為に関わったか、在宅における療養のメリット /デメリット、問題点・疑問点など、自由な記述に任せるもの。アンケートに記 述された回答を分析し、テーマで浮かび上がってくる論点を整理。この作業は 「第0コンポ」に相当する。

公開討論会の実施(10月):さらに関係団体(とりわけアンケート回答者)に 対してフォーラム(公開討論会)を呼びかけ、アンケートの論点整理を紹介する とともに、約3時間にわたって自由な議論を行う。医師、介護教員、看護師、 ホームヘルパーの4人に話題提供をお願いし、全体として20名以上が参加。それ ぞれの立場(医師、看護師、ホームヘルパー、ホームヘルパー派遣業者、ケアマ ネージャー、患者遺族、倫理学者、行政官など)から活発な議論がなされた。こ れは「第1コンポ」に相当する。

対話セッションの企画・実施(11月):アンケート結果と公開討論会での議論 を踏まえ、二日間にわたる少人数での対話セッション(「ソクラティク・ダイア ローグ(SD)」および「テーマ討論:在宅における医療行為」)を企画・実施。 SD(1.5時間×4セッション、テーマ:許される行為とは何か)の参加者7名(医 師、介護教員、倫理学者、患者遺族、ホームヘルパー2名、看護学生、うち3名は 先の「公開討論会」に参加していた)。その後のテーマ討論(1.5時間×2セッ ション)の参加者11名(SD参加者に、ヘルパー3名、哲学者1名が加わった)。SD は「第2コンポ」に、テーマ討論は「第3コンポ」に相当する。

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